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[イベントレポート] 古田徹也先生トーク&ブックトークを開催しました。

2021年04月14日

 2021年3月20日(土)に開催しました、読むことを哲学する時間 Re:cord 古田徹也先生トーク&ブックトーク 
「〈言葉を大切にする〉って何をすること?」 のレポートをお送りします。

 

Introduction —読むことを哲学する時間 Re:cord

  ある言葉をきっかけに風景ががらりと変わってしまうことがありませんか?
 Re:cordは、「本を読むことで世界と自分がつなぎ直されること、記録すること」-−といった意味合いを語に
響かせながら、様々な角度から「読むこと」を考え、 その創造性やおもしろさを見つけ出していく試みです。
日々様々な場面で触れている「言葉」と、あらためて向き合う時間をもちたいという思いから、
古田徹也先生(東京大学/現代倫理学・哲学)を講師にお迎えし、お話しいただきました。
 
 

〈言葉を大切にする〉って何をすること?

 講演では、ご著書『言葉の魂の哲学』(講談社)をベースに、 「言葉がしっくりくる」とはどのような時か、
「言葉を大切にする」とは何をすることなのか、という問いをテーマにお話しいただきました。 

  
 
 「言葉の立体的理解」という概念から始まり、四国地方の方言「むつごい」や人を言い表す身近な形容詞などの具体的な言葉の事例と、本の引用が丁寧に重ねられていきます。問いをめぐる一つ一つの考察を通して、言葉のアスペクト(表情、相貌、側面)というものを眺める楽しさが、身振りや声のニュアンスとともに瑞々しく伝わってきました。
ある一文の言葉の意味変化を体験したとき、「アスペクトが閃く」(ウィトゲンシュタイン)というフレーズが場面にぴったりと当てはまり、理解とともにそのフレーズのイメージが心に映し出されるようでした。

 (事例は、ぷっと笑ってしまうブラックジョークでした。)
地域に生きづく方言、類似した言葉の間で迷うこと、エスペラント(人工言語)、哲学者ウィトゲンシュタインから
作家カール・クラウス、責任についてー
言葉を具体的に吟味することにどれほど価値があるのかと、繰り返し批判的に問い返しながら、自然言語の複雑で豊かな
奥行きが照らされて、「しっくりくる言葉を選ぶ」という行為がもつ私たちにとって重要な意味が、次第に明かされていきました。
 
 そして最後に駆け足で追った『広辞苑をつくるひと』(三浦しをん 著/岩波書店)では、言葉の語句説明に携わる人々の営みに迫りました。
「炒める」「こする」など、日々の生活のなかで手を動かしているその感触はどうだったかと確かめたくなるような、
しっくりくる言葉を求めて体がムズムズしてくるような、言葉の実習でした。


対話する時間

質疑応答では、ぽつりぽつりと湧く疑問と応答が繰り返されるうちに、いっせいに手が上がり、すべての質問を拾いきれないほどに(!)。言葉の違和感や人との間でおこる齟齬など、生活の中で起こる様々な問題に焦点をあてながら、一つ一つ丁寧な対話を通して場が深められていくようでした。                           

「言葉は、生きてきた時代によって色々な多義語を含んでいる」

「言葉を大切にすることは、昔の言葉を保存することとはちがう」

「言葉が平板化して、もともとの意味合いが響いてないとするとよくないのではないか」

             

言葉を交わし、連関するものごとに思考を巡らせながら、深きに問いかけるように一瞬だけ沈黙される姿が心に残りました。

イベントアンケートのコメント欄でも、それぞれがご自身や生活と結びつけて考えられた言葉を読むことができました。                     

              

「個々の経験が多義語にたくわえられて、ことばの立体化につながる過程は興味深い」

「まだ言葉にならないことばかりですが、大切にふり返りたい」

「とても言葉を使うことの意識の広がりを感じた」

「最後にそもそも「しっくり」とはどういう意味だろうかと」等々、

           

充実した時間を過ごしていただけたと感じると同時に、体験したことがより精彩なものに変わり、書かれたものと対話するような気持ちが湧きました。

ブックトーク

 今回、「言葉」をテーマに先生と司書とで選書したものにそれぞれコメントを付し、記念冊子「言葉の魂とことばと私」を作成しました。
ブックトークでは、その中からいくつかの本を紹介しました。
 先生からはとくに、著者の特徴をつかみながら、詩や言葉そのものを味わう楽しみを伝えていただいたように感じました。私からは、拾い読みをしたり、「読むこと」にふれながら連想的に本から本へとつないでいきました。
 
 また、ご参加の方にも「言葉といえばこの本」というテーマで思い浮かぶ本とコメントを書いて頂きました。
どんな本を連想するのかと辿るのが楽しいミニアンケートで、「聞いてみてよかった!」と心から思いました。
 4月末まで開催中の特集コーナーでは、古田先生の著書をはじめとして、『言葉の魂の哲学』で参照されている本や関連する本、冊子で紹介している本、そして当日みなさんに頂いたこのメモと本を集めて、展示しております。展示している本はすべて貸出ができます。
お立ち寄りの際はぜひ、ゆっくりとご覧ください。

 

 先生がご紹介されていた『雨のことば辞典』(倉嶋厚 編著/講談社学術文庫)という本を鞄に忍ばせて、時々ぱらぱらと眺めていると、雨にまつわる文字や音の響きに触れて生活や風物の痕跡のようなものを見つけることがあります。
 この本は、■司書のつぶやきーおすすめの本でも紹介されていますので、併せてぜひ、ご覧になってみてください。
 

 長く余韻の続く、本当に素晴らしい講演会でした。
一年越しで実現した場にお越しいただいた皆様、
古田先生、貴重な時間をありがとうございました。

 
  

■講師プロフィール 古田徹也 Tetsuya Furuta

 1979年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科准教授。
  福岡県立筑紫高等学校卒業。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程(倫理学)修了。
 博士(文学)。 新潟大学教育学部准教授、専修大学文学部准教授を経て、現職。専攻は、現代の哲学・倫理学。
  主な著書に、『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHK出版、2020年)『不道徳的倫理学講義――人生にとって運とは何か』
 (ちくま新書 2019年)、『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』  (角川選書 2019年)、
 『言葉の魂の哲学』(講談社選書メチエ 2018年)『それは私がしたことなのか――行為の哲学入門』(新曜社 2013年)ほか。
  2006年度日本倫理学会和辻賞受賞、第41回(2019年度)サントリー学芸賞受賞。